治虫リバイバル

 

 

 

わたしが手塚治虫を好きになったのは中学生のころ

 

学校の図書室に持ち出し不可の図書コーナーがあってそこにブラックジャックが置いてあった

 

 

あーはいはいアトムとジャングル大帝火の鳥とメルモとリボンの騎士手塚治虫ね…あのベレー帽デカ眼鏡ね……(この時点でもうわりと詳しい)

 

 

何気なく手に取って一話読んでみることにした

 

 


………???

 


……………!?!?!?

 

 

 

おもしろすぎか???

 

 

 

 


そのとき大袈裟ではなく後頭部を出会い頭にバットでフルスイングされたような衝撃が走った

 

 

一話完結で大体の話が20〜40Pくらい。その短いページの中に起承転結がテンポよく上手くまとまってる

 

 

 

生と死について問いかけたり環境問題、安楽死、社会に対する問題提起を投げかけたりとマジ深い

でもコミカルさとシュールさが絶妙でシリアスになりすぎずサクサク読める

 

 

 


主人公のブラックジャックは患者に対して法外な手術費を請求する無免許の天才外科医

法外な額の報酬と引き換えに難手術を引き受ける

 

 

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いますぐ手術しないといけない死にかけの患者とその家族に対してとてもじゃないけど一般人が払えない額を提示し駆け引きをする冷血さ

 


無慈悲オブ無慈悲

 


それでもたまに垣間見える人間らしさとか、自分が作り出した助手のピノコに対する愛情だとか、子供や弱い立場の人間に対する優しさとか冷たい仮面の下から見え隠れする情の厚さにキャラクターとしての魅力を感じてしまう

 

 

 

普段氷みたいに冷たい人間がふとしたときに優しさ出してきたときの攻撃力って抜群なんですよね

 


そういう男ってめちゃくちゃモテると思う。当社比。しらんけど

 

 


まあとにかくキャラクターの魅力もさることながら一話一話のクオリティがめちゃくちゃ高い

 


たとえば、わたしがブラックジャックの中で大好きな話「おばあちゃん」

 

 

 

あるところにケチで金にとてもがめついおばあちゃんがいた

ことあるごとに金をせびってくるおばあちゃんに息子夫婦は毎回衝突し、ウンザリしていた

 

 

 

 

そのおばあちゃんと偶然出会ったブラックジャックは世の中には偉大な医師はふたりいる

ひとりはブラックジャック、もうひとりは甚大先生と教えられる

 

 

 

調べてみると甚大はブラックジャック同様高い治療費を請求することで有名な名医だった

 

 

 

 

一方、使い道なんてないはずなのにいつもいつも金をせびってくる母親を疑問に思った息子

 


嫁から時々おばあちゃんはひとりで出かけていくと教えられそのあとを尾行することにする

 


するとたどり着いたのは大きな屋敷だった

 

 

 

そこで、屋敷に住む老婦人とおばあちゃんの会話を聞いて驚愕する

 

 

 


その屋敷には昔甚大という医師が住んでいたのだが息子がまだ赤ん坊だった頃、難病を1200万円の治療費と引き換えに手術していたのだ

 

 

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当然そんな金などない母親

しかし息子が助かるなら一生かけてでも払うと約束し、身の回りのものをほとんど売り払い血の滲むような思いで内職をし来る日もくる日も返済をし続けたのだった

 

 


それでも足りない治療費を甚大医師が亡くなったあとも、奥さんに絶対に最後まで払うと約束し余計な心配をかけないよう誰にも内緒で息子夫婦からもらうわずかな小遣いを支払いに充てていた

 

 

 


家の外から盗み聞きしていた息子はその事実を知り今まで母親を疑い邪魔もの扱いしていた自分を恥じその深い愛情に涙する

 

 

 

 

おばあちゃんはこの屋敷を訪れ最後の支払いを済ませたところだった

 

 


その気の緩みからか帰り道、脳溢血で倒れてしまう

 

 

 


 「治る見込みは少ない。90%命の保証はない。だが、もし助かったら、三千万円いただくが…あなたに払えますかね?」

 


ブラックジャック

 

 

 

 

 


そしてこの最後のページ

 

 

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はぁ

 


余韻。。。(余韻。。余韻。。。)(やまびこ)

 


これね、たぶん最終的には治療費もらわないんですよ

 


そういう男だからブラックジャックって

 

 

 

自分自身ある事故をきっかけに母親に対する愛情が人一倍強いキングオブスーパーマザコン野郎だからいつも母と子の愛情が絡む案件に遭遇すると口ではこう言いつつも無償で助けたりするんです

 

 


それを聞きたかった

 


それ…を…聞きたかっ…た……

 

 

 

そ…れ…を…聞き……た…かっ…た……

 

 

 

ってなに?は?anan抱かれたい男ランキング殿堂入りだろこれ

 

 


そして声を大にして言いたいのは毎回最後のコマが秀逸ということ

 

 

一言だけだったり、セリフすらなかったり、後ろ姿で顔の表情が見えなかったり、それなのに物語全体がその一コマによって一気に締まる

 

 

 

ここでも、肝心の結末は描かれていない

 

 

 

読者に結末は委ねている

 

 


正直ここでおばあちゃんが助かった助かってないかは問題ではないのだ

 

 

 

 

全然興味ないひとからしたら何いってんだこいつって感じだと思います

 


オッケーです

そのまストロボエッジ読んで一ノ瀬君か安堂君派かで一生終わりの見えないディスカッションしててください

 

 

 

それでも

 

 

 


中学生のわたしはそれはそれは影響を受けた

 

 


一緒に下校してた伊丹ちゃんにブラックジャックの良さを頼まれてもないのに永遠と語ったり台詞も全部覚えてる!!とか言って覚えた長台詞をドヤ顔でお披露目したり

 


もはや手塚プロの回し者みたいになっていた

 

 

セリフもちょっと詰まったり間違えたりすると、あっごめんもっかいいい…?って

 

 

 


いま思うとめちゃくちゃうざい

うざいのバロメーター振り切ってる

 

 


それを苦笑いしながら聞いてくれてた伊丹ちゃんの優しさを思い出しては時折チクッと胸が痛む

 

 

 


でもわたしのそういった地道な布教活動が功を奏したのか、その後部活内では一時期プチブラックジャックブームが巻き起こった

 

 

みんなが小脇にブラックジャックを抱えていた

 

 

 

 

それから10年、いまだにわたしは手塚治虫がすきだ

 


火の鳥の壮大な世界観も理解できる年齢になった

 

 

 

 

 

いつだったか、雑誌の企画でビューティー系の質問に答える機会があった。お気に入りのコスメ、おすすめのスキンケア、通っているサロン…結構掘り下げて書かなきゃいけなくてひとつひとつ答えでいく中で憧れの人の欄があった

 

 

 

 

手…まで書いて思いとどまった

 

 

 

ちがう、これは絶対的にこの場で求められてる答えじゃない……この質問は石原さとみとか田中みな実とか鈴木えみが正解であって手塚治虫では…絶対にない…

 

 

 

 

数秒その紙を無言で見つめたあとミミズみたいな文字でまいやんって書いた瞬間大人って時として自我を殺さないといけないこともあるんだな〜と学んだ

 

 

 

 

そうやってTPOを弁えるいい大人になったはずだった

 


はずだったのだ…

 

 

 

 


きっかけは友達と道を歩いてて偶然目に入ったポスター

 


そこには手塚治虫の歴代のキャラクターが勢揃いしていた

 

 

 

 

 

 

一瞬にしてあの頃の情熱が蘇った

 

 

 


そう、またやってしまったのだ

 

 

 

 

あの忌まわしい記憶…中学の頃同様、手塚治虫の押し売りを

 

 

 

 


ひさびさにあった友達にアムウェイ勧誘されてもそんな顔しないだろってくらいの困り顔でナチュラルに話を変えた友達の圧巻の苦笑いっぷりは忘れられない

 

 

 

 


あの、チクッと一瞬胸が痛む懐かしい感覚が再び蘇った

 

 

 

 

 


そうやって直接洗脳しようとすると引かれることがわかったのでたまにインスタのアイコンを自分からピノコに変えて、間接的に4.7万人の潜在意識に訴えかけるサブリミナル効果を狙ってる

 

 

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というのはまあ後付けだけど自分の顔だらけのインスタに胸焼け起こしたらピノコをアイコンにして中和させてます

 

 

 

 

 

 

わたしの顔を見たら頭の片隅に手塚治虫を思い出してください

 

 

 

 


インスタ映えスポットとか正直どうでもいいから手塚治虫記念館とトキワ荘に行きたいな〜なんて考えるそんな今日この頃でした